宮司さんのおはなし 第26回
11月下旬に、兼務社である鶴ヶ峯稲荷神社崇敬会の方々と一緒に京都・奈良方面へ出かけてまいりました。鶴ヶ峯稲荷神社は京都の伏見稲荷大社より御分霊をお授けしていますので、1年おきに本宮にて正式参拝を行うようにしています。お祓いを受け、玉串を献ずるとともに御神楽をご奉納し、神さまのご加護に感謝を捧げました。
振り返ると、今年は何かと「動き」の多い1年だったように思います。この旅ではその後、北野天満宮と奈良の談山神社をお詣りし、各所で見事な紅葉を満喫できましたし、春の関西では杜若を感じることができました。また岩国、倉敷、広島と中国地方へ出かける機会にも恵まれました。ここ数年は年齢による体力の衰えを感じることの多い私でしたが、こうしてさまざまな場所へ出かけることで多くの方とお会いでき、好奇心を刺激されて、元気を取り戻すことができたように思います。
神社界全体においては、やはり伊勢神宮の式年遷宮が最も大きな、喜ばしい出来事でした。出雲大社の遷宮も重なった今年はマスコミの特集や旅行会社のイベント企画などでも遷宮に注目が集まり、多くの方に神社のあり方や自然の素晴らしさを再認識していただけたのではないかと思います。これをひとつの節目として、私たち神職もより真摯にご奉仕していかなければと決意を新たにいたしました。
また当社でも老朽化の進んでいた社務所を建て替え、用途ごとに部屋を区分いたしました。これによって、今後は神職の行動にけじめをつけることもできると考えています。とはいえ、整頓しすぎるのも四角四面になってよくありません。環境がもたらす影響は働く人たちの態度に表れますから、当社では節度あるなかにも温かみを失わないご奉仕ができるよう、よりよい形での環境を整えていきたいと思っています。
人同士の温かな交流という意味では、成人の方々を対象にした和楽器教室も大きな成果を上げました。当社では以前から「明神神楽会」と銘打った親子教室を続けていますが、大人のみで教室を行うのは初めての試みでしたので、私は冒険だと思っていました。けれど思った以上にたくさんの方が集まってくださり、みなさん熱心にお稽古されていたようです。10回目の教室ではこれまでの練習の成果を神さまにご覧いただこうと、社殿にて演奏の奉納も行いました。私自身は時折廊下越しに練習を聴かせていただく程度の関わりでしたが、にぎやかで温かな雰囲気のなかにもピリッとしたけじめを感じる教室で、神社という場所を提供することの意義を持てたと思っています。
一方、東日本大震災以来クローズアップされることの多い自然災害においては、今年も台風や大雨、崖崩れなどによる被害が頻発しました。政治面においても国内外ともに不穏な情勢が伝えられ、なかなか心が安まりません。食品偽装問題なども起こり、将来への不安を募らせた方も多かったのではないでしょうか。真に安全で健やかな生活を送ることが難しくなっているいま、神社としてみなさんのために何ができるか、神職一同で考えていきたいと思います。
最近はご家族やご親戚に病人を抱えていらっしゃる方も多く、参拝された方からのご相談も増えています。当社ではこれまで健康祈願の御守りは一種類しか授与していなかったのですが、病気平癒のための御守りがどうしても欲しいというお声が年々増えてきたため、当社がお祀りする日本武尊(ヤマトタケルノミコト)さまのご神徳をいただく形での平癒守を新年よりお渡しできるようにいたしました。今年の春頃より授与している「克守」も、自分自身の心を強くして病気から回復したいという意味でお持ちになるにはよいのではと思います。日本武尊さまはあらゆる困難に打ち克つためのご神徳が非常に強い神さまですから、「克守」には目標達成や勝負事などに対し努力されている方がご加護を賜りたいとお持ちになるケースが多く、わざわざ遠方からお詣りにいらっしゃる方も増えています。
どんな時代、どんな状況にあっても、よりよい暮らしを築いていくためには、まず自分自身を見つめ直し、心を強く磨いていくことが大切です。この年の瀬に1年を振り返り、新年への志を新たにいたしましょう。
みなさんがよいお年をお迎えできますよう、心よりお祈り申し上げます。