宮司さんのおはなし 第17回
瑞々しい若葉の緑に降り注ぐ、太陽の光が眩しい季節となりました。神社近くの保育園からは、今日も子供たちの楽しそうな声が聞こえています。
さて、前回は男女の結婚をテーマに、神さまのご神徳による“むすび”の概念についてお話ししました。今回は男女のむすびが担うもうひとつの営み、“出産”についてお話ししましょう。
授かった命が胎内で無事に育ち、元気に産まれてくることができるよう、神道では妊娠5ヶ月目の戌の日に安産祈願を行います。なぜ戌の日かといえば、犬は現世と来世を行き来することができ、吠えることで邪気を払う動物だと考えられているからです。犬は多産でお産も軽いため、これにあやかろうとする意味合いもあります。つまり戌の日に安産祈願を行えば、不安定な時期を過ごす妊婦と胎児を犬が守ってくれ、縁起がよいと考えられているわけです。
そうお話しすると「絶対に戌の日でなければ」と過度に心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、必ずしも戌の日当日でなければいけないということはありません。神社では随時祈願をお受けしていますので、各々のご都合に合わせて参拝していただければと思います。
また安産祈願の際には「岩のように丈夫な子供が産まれてくるように」との願いを込め、妊婦のお腹に『岩田帯』と呼ばれる木綿の腹帯を巻きます。昔は神社が布をご用意し、社紋を押したうえで奉書紙(和紙)と麻の紐で巻いたものを神前へお上げしていました。でもいまは腹巻式の腹帯を使用される方がほとんどのため、お持ちいただいたものを神前へお上げしてご祈祷を行っています。
出産後には、生後3日目の『産湯』、7日目の『お七夜』、30日前後の『初宮参り』、100日目の『お食い初め』など、いくつかの儀礼をもって新生児の健やかな成長を願います。産湯は「氏神さまがお守りくださる土地の水で子供の身体を清める」、お七夜は子供に付けた名前を奉書紙に書いて神棚へ上げることで「その子が家族の一員となったことをお家の神さまにご奉告する」など、どれも神さまのご加護をいただくための大切な儀礼です。この2つの儀礼を家庭で行ったのちに、神社で初宮参りのご祈願を行います。初宮参りには「新たな家族の誕生を氏神さまにご奉告し、その子が氏子となることをご承諾いただく」という大きな意味があるので、神さまへの深い感謝の心を持って参列することが大切です。
お七夜に必要なお子さんの命名については、昔から神社へ依頼される方が多くいらっしゃいました。いまでもたくさんのご家族からお問い合わせやご依頼をいただきます。ご依頼をいただいた場合には、当社ではまずご両親と、その父母、祖父母と3代くらい前までのお名前を伺い、ご両親が考えていらっしゃるお名前の候補をお預かりします。そして吉凶を判断したのちに、こちらがお薦めするお名前をお渡しします。家系を伺うのは、漢字1文字であったり、すべてひらがなであったり、あるいはどの世代にも同じ文字が使われていたりといった、それぞれのお家が持つお名前の傾向を知るためです。
どんな名前をよい名前と考えるかには色々な意見があると思いますが、当社では「耳から入る音に違和感のないこと」を第一に、画数のバランスがよいこと、それぞれの文字の陰陽(画数の奇数・偶数)の組み合わせがよいこと、五行(母音を木・火・土・水・金の5つに分けたもの)の調和がよいこと、使用する漢字に悪い意味がないこと、などをよい名前の条件としています。最近では大変に凝った名前を考える方が多く、いただいた候補が読めないこともよくあるのですが、本来は誰もがすっと読め、耳で聞いたときに明るく親しみやすい印象を受ける名前がよいとされています。考え過ぎ、凝り過ぎなど、何事も“過ぎる”のはよくありません。ですからそうした傾向のある方には、素直な気持ちでもう一度考えてみてはいかがですかと助言差し上げています。
前回でもお話しした私の3人目の孫は「好晴(ヨシハル)」という名前になりました。私の家では代々、男児には「好」の字を使ってきたのですが、その流れに沿う名前を夫婦で考えたようです。おかげさまで周りの皆に愛され祝福されて、すくすくと元気に育っています。
最近では初宮参りに親族が総出でいらっしゃるお家も多く、出産後の儀礼については年間を通じたくさんのお問い合わせをいただきます。希望に満ちた人生をスタートさせるお子さんの健やかな成長と幸福を願う気持ちはどのご家族も同じでしょう。すべてのお子さんに神さまのご加護を賜れますよう、私たち神職も心を込めてご奉仕していきたいと考えています。