宮司さんのおはなし 第16回
花冷えの季節もそろそろ終わり、暖かな風が境内を包むようになってきました。春は、人生における新たな一歩を踏み出す人の増える季節です。今年もまた、入学、入社、結婚、出産など、さまざまな節目を迎えられた方の多いことでしょう。
当社でも、禰宜を務める私の長男に最初の子供が誕生しました。私にとっては3人目の孫となりますが、こうして家族に新たな一員が加わることはいつの日にも大きな喜びです。
そこで今回は、神社へのお問い合わせにも多い“結婚”と“出産”にまつわる人生儀礼について、神道の立場からお話ししたいと思います。まずは結婚についての考え方からお話ししていきましょう。
神道には「さまざまな物事が結びつくことによって生命や活力が生み出される」とする“むすび”の概念があり、結婚もそのひとつの形とされています。文献には、まず三柱の神さまが天地の初めに関わる“むすび”の力をお示しになり、その後に男女の性別を持つ神々がお生まれになったと記されています。そのなかで初めに夫婦という形を取られたのが、イザナギノミコトとイザナミノミコトの二柱の神さまでした。
このことから神社で結婚式を執り行う際には、その神社のご祭神とともに必ずイザナギノミコトとイザナミノミコトの二柱の神さまをお祀りし、神さまに習って男女が夫婦となることを祝詞で奏上します。そうしてむすびの神さまの御神縁によってふたりが結ばれることに感謝を捧げるのです。
結婚は男女がひとつになる“むすび”の形ですから、これからは相手の身になって物事を考え、一生をかけてお互いを磨き合っていくのだという気持ちを持たなければなりません。それが相手への敬意や思いやりを育て、徳を身につけることにつながるからです。神道ではこうした精神性を非常に重視します。これは諸外国にはあまり見られない日本独自の考え方であり、いわば神前結婚は日本人が本来持っている“心”を体現したものなのです。
近年では、ただ相手を好きだから一緒になる、結婚の意味など考えたことがないという方も多いようですが、一方で神前結婚式を希望される方は年々増えています。そもそも神前結婚式が広まる契機となったのは、明治33年に当時の皇太子(のちの大正天皇)のご婚儀が、天照大神(アマテラスオオミカミ)をお祀りする宮中賢所(カシコドコロ)で執り行われたことでした。ですから結婚という新たな門出を迎えるおふたりには、式のスタイルだけでなく、神さまのご神徳による“縁”や“むすび”を意識することの大切さも知っていただけたらと思います。
また男女のむすびには、新たな生命の誕生を担うというもうひとつの側面があります。神道では、こうして綿々と受け継がれていく命の大切さを自らが見本となって伝えることが親の使命であると考えます。次回は、この役割を担う女性の妊娠、出産にまつわる人生儀礼と、生まれた子供への“命名”についてお話しいたしましょう。新たな命の誕生を晴れやかに迎えられるよう、参考にしていただければ幸いです。