宮司さんのおはなし 第13回
紅葉の季節を迎え、ひんやりとした風を感じる機会が多くなってまいりました。境内は今年も、七五三参りにいらっしゃる晴れ着のご家族で賑わい始めています。
みなさんもご存じのように『七五三』は3歳と5歳の男の子、3歳と7歳の女の子を対象に、これまで無事に成長してきたことを神さまにご報告し、感謝するとともに、これからの成長に対してもご神徳をいただけるようお願いする人生儀礼です。これらの歳にお祀りを行うのには理由があり、昔の子供は3歳を『髪置(カミオキ)』あるいは『櫛置(クシオキ)』として、それまで剃り上げていた髪を伸ばす節目にしていました。やがて5歳になった男の子には『袴着(ハカマギ)』、7歳になった女の子には『帯解(オビトキ)』という、次の節目が訪れます。これはどちらも着衣の変わり目で、男の子は5歳で初めて袴をつけることを許され、7歳になった女の子はそれまで紐で結んでいた着物にきちんとした帯をつけるようになります。七五三はこうした節目を無事に迎えられたことをお祝いし、神さまのご神徳に感謝を捧げるところから始まりました。
昔は「7歳までは神のうち」と言われ、7歳くらいまでの子供は神さまの世界である幽世(カクリヨ)と私たちが生きる現世(ウツシヨ)の中間に位置する不安定な存在とされていました。食糧事情が悪く医療技術も未発達だった時代には、それだけ生きるのが大変だったということでしょう。そのため昔の人々は『袴着』の際には親族から長命の男性を選び、『帯解』の際には子沢山の女性を選んで、最初に帯を結ぶ役割を任せるといった縁起も担いでいたようです。七五三ののちにも十三参りや元服など、いくつもの人生儀礼がありました。男女ともにおよそ15歳で一人前の大人と認められた時代には、自立心が育つのも早かったことでしょう。
そう、七五三には身体の成長を喜ぶと同時に〝心の成長〟を促すという、もうひとつの大切な意味があるのです。これを踏まえ、杉山神社では七五三の式を行う際、親と子の座る場所を分けるようにしています。社殿へご案内した段階で、お子さんだけをより神さまに近い前列に、親御さんには後列に座っていただくのですが、やはり最初は親子ともに少し戸惑われるようです。でも不思議と実際に式を始めると、心配そうにしていらっしゃる親御さんとは対照的に、お子さんたちはしっかりした態度を取るようになります。
「いいですか、ここは神さまのいらっしゃる場所ですから、みなさんきちんと正座をして、しばらくはお友達とのお喋りも我慢してくださいね」「これから、みなさんが病気をせずに元気でいられるよう、そして自分のことは自分でちゃんとできるよう、お参りをします。神さまとお約束するのですから、気持ちを静かにして、一緒にお祈りしましょうね」
…こんな風に私は必ず、お子さんに直接お参りの主旨を伝えるのですが、みなさん静かにうなずいて、二礼二拍手一礼といった作法もその場でしっかり覚えます。
またこうした場では、年少のお子さんが年長のお子さんの真似を自然にするのも興味深いところです。私は御札や御守をお渡しするときにも「みなさんのお名前をお呼びしますから、呼ばれたらお返事してくださいね」とお子さん本人に渡すのですが、すると初めはもじもじしていた年少のお子さんも、お兄さんお姉さんが「はい」と返事したり「ありがとう」と言うのを見て、元気な声で答えてくれるようになります。
ご家族のなかには「うちの子は正座をしたことがないのですが…」「親が付いていなくて大丈夫でしょうか」と心配される方もいらっしゃいます。もちろん3歳のお子さんに関しては場合に応じて親御さんに付いていただくこともありますが、私はお子さん本人の自主性をもっと信じてよいと考えています。
親が思う以上に、子供の心は成長しているものです。ですから親御さんの方も、この機会にお子さんとの接し方を見つめ直し、自立心を育てる思いを新たにしてみてはいかがでしょうか。親子ともに新鮮な気持ちを持って神さまに向かうことができれば、七五三という人生儀礼も、より意義深く喜ばしいものとなることでしょう。