星川杉山神社

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宮司さんのおはなし 第9回

毎年12月に入ると、新年のお札をお持ちし氏子さんのお家に伺うことを恒例にしています。この一年の出来事などをお聞きしながら長居してしまうことも多いので、私がこの役を担うのはあまり効率的ではないなと思うのですが、みなさんのお元気な姿を拝見できるのが嬉しくて、どこのお家でもつい話し込んでしまいます。

さて、みなさんにとって平成22年はどんな一年だったでしょうか。今年の初めに『庚寅(カノエトラ)』の年には“改変・更新”といった意味があるとお話ししました。そして、みなで助け合いながら間違いや失敗を正していくことが、よりよい方向へと前進するための大切な心構えになるでしょうとお伝えしました。

振り返ってみると、昨年の政権交代を受けて新政権が本格的に動き始めた今年は、確かに“改変”の年であったようにも思えます。しかし、それで世の中はよりよい方向へと前進することができたでしょうか。相変わらず明るい話題の少ない、問題の多い一年ではなかったでしょうか。

不況にデフレ、円高といった経済状況が改善されないだけでなく、猛暑の夏に農家の方々は苦しみ、熱中症などの病気に倒れた方も多かった今年、行方不明高齢者の問題が表面化したり、自殺者数が過去最多であったりしたこともニュースで取り沙汰されました。本来ならばよい方向へ向かうはずの“改変”が、なぜこうした事態を招いてしまうのでしょうか。私には、政権交代ののちに起こった与党の内部分裂がその象徴であるように思えます。

「自分さえよければいい」という考え方からは、助け合いの精神は生まれません。支え合うことを忘れた社会には孤独感が増し、人々のつながりはどんどん希薄になっていきます。先の行方不明高齢者の問題のように、親子関係でさえも希薄になっている現状を考えると、これがどれほど深刻であるかがわかります。神社ではいつも、お家の守り神である祖先を大切にお祀りしてくださいとお話ししますが、ともに生きる家族とのつながりでさえ危うい日々のなかでは、祖先へと思いを馳せる機会などなかなか持てないことでしょう。

私たちはみな、祖先から脈々と“命”を受け継いで、いまこの時代に生きています。当たり前だと思われるかもしれませんが、このことをきちんと意識できるかどうかは、その方の生き方に大きな影響を与えます。なぜなら命のつながりを感じることができなくなると、いま自分がここに存在していることの意味がわからなくなり、人生に感謝することもできなくなるからです。つまり祖先の存在を感じるということは、自分自身の存在を実感するということでもあるのです。

ひとりひとりが自らの存在をしっかりと感じ、そのうえで「自分さえよければ」という考えは間違っているのだと気付くこと。それが“改変”をよりよい方向へと向かわせるための最も大切なことではないかと私は思います。社会環境を改善していくためには、まず“心”の環境から整えていく必要があるのです。

年の瀬には、今年一年を仕事一筋に走り続けてきた方も、お家を離れて毎日を過ごしてきた方も、多くの方々が家族のもとへ戻られることでしょう。どうぞこの機会に、ご自分を取り巻く人々とのつながりに思いを馳せてみてください。みなさんが、穢れのない、健やかな心で新たな年を迎えることができますよう、心よりお祈り申し上げます。

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